最近、こんなツイートをしたところ、予想外にバズってしまいました。

「21世紀のものづくり革命」を唱えたクリス・アンダーソンの名著「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」が2012年に出版されてから早4年。「誰でも家庭で簡単にものづくりができる時代!」という内容に心を踊らせ、夢を抱きながらも、数十万円を越える個人の趣味としては勇気のいる初期投資や技術への理解、要求スキルも相まって、2016年現在においてもまだ、結局は夢物語だったなぁ…と感じている人が大半なのではないでしょうか。

ところが、このホリデーに3Dプリンターを家庭に迎えた我が家で起こったことは、驚きの連続でした。

「えっ!?なんで今まで3Dプリンター持ってなかったの?!
「CAD簡単すぎ!30分も勉強してないよ?!
全部で500ドルも使ってない!安いやつだと3万円くらい!

技術の世界で4年というのは大変長い時間。私の予想を超え、気づかないうちに技術も製品もコモディティ化が進んでいました。しかも驚くほど価格を下げ(ときに無料で)、CADや学習環境といったエコシステムも整備されている状況に感動。。。

どんな夢物語も、最後のボトルネックは価格です。そして、結局は価格が安くなれば、夢は現実になると改めて感じさせてくれる素敵な出来事でした。

今日はそんな「3Dプリンターが家庭にある日常」を3万円くらいから始める方法についてご紹介したいと思います。

現在の3Dプリンタは驚くほど安い!

まず最初の一歩は3Dプリンタを入手することですが、やはり気になるのは価格。私が高専に通っていた頃に学校で買った3Dプリンタは、たしか価格が100万円くらい、Makers本で21世紀の産業革命だ!と紹介されていた「Makerbot Replicator」で20-30万円くらいでしょうか。

私も3Dプリンターというのは、そのくらいのものだと思っていました。安くて十数万円だと。ところが3Dプリンターはもはやコモディティ化された技術。中国のメーカーから激安の製品が沢山売られています。

値段はなんと3万円程度から!しかもメーカー保証や印刷ソフト、外装ケースもついている組み立て済みの製品です。
自作キットに至ってはフィラメントの制約なく使えるタイプでも3万円を切る驚きの安さ。。。

我が家ではそれなりに使い込みたかったので、素材にプラスチック(※追記 PLAのことです!)とABSが両方使えて、他社製のフィラメントもOK、作業台を加熱できるヒートベッド、ヘッドの自動キャリブレーション、さらにWiFi機能付きで、外装ケースがカッコよくてリビングにも設置できそうな「XYZ PrintingのDa Vinchi 1.o Pro」をブラックフライデーに499ドル(送料込み)で購入しました。
(ダヴィンチ・プロは日本だと9万円台らしいのでアメリカだとお得ですね。とはいえ9万円台でも十分安いが…。)


カタログ写真はカッコイイけど、所詮500ドル程度の3Dプリンタでしょ、と、正直なところ作りや品質についてはあまり期待していなかったのですが…

梱包も作りも予想以上にしっかりしています。
中学生の時に実家で買ったCanonの普通の紙のプリンターは3万円くらいだった記憶がありますが、これだけのものがたった500ドルというのは驚きです。。。

フィラメントも驚くほど安い!

「よくあるプリンタ商法でしょ?本体を原価割れで売って、血液より高いインクを売りつけるというwww

そう考えた方、残念ながら違うんです!(私も最初そう疑ってたw)
3Dプリンター本体もそうですが、印刷に使うフィラメントの値段も同様に、びっくりするくらい安くなっているんです。

たとえばebayを使うと、1キロのリールのABSフィラメントが、送料無料で$13.50ドルから買えます!

値段的にはもはや紙のプリンターのインクより安いですね(笑)
このフィラメント、1キロあれば相当遊べます。冒頭のツイートにあったキーフックくらいであれば、確実に50個以上は印刷できるレベル。
何も考えずに無尽蔵に印刷しても、実際には月に1本も使い切らないのではないでしょうか。

実は先日「フィラメントをもっと大切に!」と、はとねさんに注意した時に言い返された言葉に、結構心を動かされました。

「たかだか1,500円程度で無尽蔵に3Dプリントできるなら、私は湯水のごとく3Dプリントしたい!気を使って失ってしまう本来得られたかもしれない体験や、トライ&エラーで腕を磨く機会損失のほうが遥かに高い!!

まさにその通り!!目から鱗です。時代は変わったのです。
学生時代、フィラメントはキロ3万円、印刷は数十時間、プリンターが数百万円だった時代の肌感覚がどこかで自分を邪魔していました。

数万円の初期投資と、月たった1,500円程度の出費で、思い立ったものを無限に3Dプリントできる生活って、凄く楽しいと思いませんか?

CADはもはや無料!3Dデータもネットに沢山転がってる

3Dプリンタやフィラメントが安くても、肝心の印刷する3Dデータが無くては何もできません。「CADってソフトが高い…」「3DCGって難しい…」と思っていたあなた!時代は変わりました!

プロ用のアニメーションツール「3ds Max」や「Maya」、プロ用のCAD「AutoCAD」なんかを開発しているAutodesk(オートデスク)社が提供しているFusion 360というCADソフトは、3Dでのデザインや設計だけでなく、設計やシミュレーションにアニメーション、最後はマシンで加工するデータに変換するCAMまで全てできちゃう凄いCADソフトで、しかも、学生&教職員だけでなく、なんと一般ユーザでも趣味の工作非営利活動など、ホビーユースならずっと無料で使うことができちゃうんです!!もちろんWindowsだけじゃなくMacも対応していますよ。

世界的に有名なソフトなので、YouTubeをはじめ、ネット上には勉強用の教材や動画も無料で盛り沢山!解説サイトも山のようにあります。使い方も、雑に絵を書いて、それをぬぬぬっ押し出して、みたいな簡単なものから、スプライン曲線を使った超高度なものまで、商業用でも全く問題ないレベル。私もYoutubeとUdemyの教材で使い方を学びましたが、30分ほど基本操作を動画を見ながら学ぶだけで簡単なものであればサクッと図面を引くことができるようになりました。

「とは言えデータを1から自分で作るのはハードルが高い…」と思われる方も心配しないでください。Thingiverseというサイトでは、いろんな人が作った実用的な印刷用3Dデータを無料でダウンロードすることができます。

たとえば「ポテチ食べきれなかった…」というとき、さくっとSlide Bag Clipのデータをダウンロードして印刷して、袋の中身が湿気るのを防ぐとかカジュアルにできます。

もちろん、ダウンロードした3DデータをFusion 360で読み込んで改造することも朝飯前。上記のRaspberry Piのケースもこのデータを落としてきて顔の形に穴を開けたただけです。所要時間1分以下!

3Dプリンターが家庭に一台あると、Amazonで日用品を買って届けてもらうよりも圧倒的に早く手に入れて使い始めることができる!という時代が、ネタじゃなくて本当に来てるんだなぁと、感心する毎日です。

「粘土」「ガムテープ」みたいなもの

実はエンジニアの私は最近まで「3Dプリンターなんて子供騙し」「プロトタイプにしか使えない、量産できない」「あんなものは家庭に不要」と考えていました。実際の性能や使い勝手以上に話題にされて、夢の機械!みたいに言われているけど、実際のところ大したもんじゃない。そう考えている人は、実は私だけじゃなくて結構いるんじゃないでしょうか。

そして、役に立たないオモチャなんかに十数万円の投資は高すぎる。「絶対に量産品を店で買ったほうが安くて早い!!!」と。

この感覚が全て崩れたのは、3Dプリンタ周辺の圧倒的な価格崩壊と性能の向上を実感してからです。

たしかに3Dプリンタの性能は今も限定的で、印刷には時間がかかるし、精度だって限界がある。強度も市販品には到底及ばない。でもこれが、30万円の投資のリターンではなく、3−5万円の買い物のメリットだと思えば、全てが納得できるのです。安いってすごい。

家庭に3Dプリンタがやってきて強く思うのは、家庭にお迎えする3Dプリンタは、いわば「ダンボール」や「針金」、「粘土」や「ガムテープ」みたいなものだなという事です。いわば、暫定的な解決手段だけど、工夫次第で暮らしを結構便利にできるツールたち、と言ったところでしょうか。日常生活で感じるちょっとした不便や、一時的にほしい小物なんかがあったら、図工に苦手意識がない人は手元にあるダンボールや粘土、ガムテープなんかで、さくっと作って解決したという経験はありませんか?

「ここにフックが欲しい」
「ちょっとした小物を入れる場所がほしい」
「工具をまとめておくペン立てがほしい」
「コードをここに引っ掛けておきたい」

こういう、日常生活の中でプロや製品としてのクオリティを要求されないけど、どうにか解決したい問題を、切ったダンボールをガムテープで貼り付けるがごとく、その何倍も精度も強度も再現性も高い状態で解決してくれる強い味方が、3Dプリンターという感じです。

たとえばガムテープが1ロール1万円とかしたら、絶対に雑な使い方はしませんよね?ガムテープは安くて使い捨てられるからこそ、多くを求めないし、気軽に創意工夫をもって使いまくることができるんじゃないかなと思うんです。

本体への投資は安いとは言え数万円とお金がかかりますが、消耗品たるフィラメントは、もはや費用対効果的にはガムテープより安いかもしれません。ちょっとした暮らしと人生を豊かにするという意味で、家庭の日常への3Dプリンタの導入することは、実は意外とアリだなぁと強く感じます。

スキルは必要、でも使いこなすと凄く楽しい

3Dプリンタを家庭の日常に導入するということに関して、簡単ですがまとめました。ブームが去った技術であっても、着実に技術は進化し価格は下る。そして、価格がある一線を越えると、その体験の意味が根本から変わり、未来が日常に代わることができるのだと再認識できた、とてもおもしろい体験でした。

とはいえ、ここまでさらっと書いてはいますが、3Dプリンタはまだまだスキルが要求されるジャンルだという事は、過度な期待と失望を招かないために頭に留めておいてほしいなと思います。実際、うちの3Dプリンターも、買って使いまくっているうちに1週間でノズルが詰まって壊れましたが、作りもまだまだ雑(というかDIYっぽい感じ)なので、自分でネットの情報を元にバラバラに分解し、100均で代替えパーツを買ってきて修理をしたりしています。

こういう感じなので、全くの初心者が誰でも何も考えなくてもパソコンのプリンターみたいに簡単に使える!!というのは嘘で、なかなか実際はハードルが高いでしょう。これが、Amazonのレビューが5と1に偏る理由だと思います。しかしながら、興味をもって取り組む限りは、ネット上には情報が溢れていて、まだまだブラックボックスになる前の原始的な技術ということもあり、逆を言うと、分解すれば構造も仕組みも理解できるレベルにあるのです。

むしろ自分で分解修理できるくらいの工業製品のほうが勉強になって良い!くらいのモチベーションを持てる人であれば、PlayStation 4を買うのと同じ値段で、未来の(だけどある程度手間のかかる)工作ツールを家庭にお迎えするのも悪くは無いかもしれませんね。

良い年末をお過ごしください!